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東京高等裁判所 平成7年(ネ)4352号 判決 1996年2月08日

《住所省略》

控訴人

甲野不動産株式会社

右代表者代表取締役

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

高木國雄

相川裕

《住所省略》

被控訴人

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

高井伸夫

山崎隆

岡芹健夫

廣上精一

山本幸夫

前田達郎

右当事者間の取締役会決議無効確認請求控訴事件について,当裁判所は,次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

次のとおり付加するほか,原判決事実摘示のとおりである。

(原判決の訂正)

原判決別紙物件目録末行「4分の1」の前に「持分」を加える。

(控訴人の当審における主張)

原判決は,原判決別紙物件目録記載の土地を控訴人から買い受ける株式会社イロハニの代表取締役が,控訴人の取締役甲野二郎であることから,同人がイロハニの代表取締役として控訴人と売買契約を締結することは,控訴人の立場から見て,取締役の自己取引に当たるとしている。しかし,控訴人とイロハニとはその株主構成が極めて近似しており,主要株主は共通であるから,両者の間には実質上利益相反の関係はないのであって,この点に関する原判決の認定判断は誤っている。原判決は,特別利害関係人として議決権のない甲野二郎が議事を主宰した瑕疵があるとしている。しかし,特別利害関係人が議長として議事を進行しても,取締役は会社に関する十分な知識と判断力を備えており,議長の議事により取締役会の議事が不当な影響を受けることはないのであって,決議は有効であると解釈すべきである。この点に関する原判決の法律判断は誤っている。そして,被控訴人の妻である甲野秋子は,本件取締役会に出席し賛成票を投じた。同人は,被控訴人と法人格は別だが,被控訴人の実質上の代理人であったのであり,その者が異議を述べていないのに,被控訴人が決議の無効を主張するのは,権利の濫用である。これを否定する原判決は法律判断を誤っている。そして,本件決議を無効としても,別途追認の決議がなされることが確実であるから,本件決議の無効を確認する利益はなく,本訴請求を認容するべきではない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も,次に記載するほか原判決と同一の理由により,本件取締役会決議は無効であり,これを確認することを求める被控訴人の請求は理由があるものと判断する。

(控訴人の当審における主張について)

原判決の指摘するように,本件取締役会決議には,議決権のない者が決議に参加した瑕疵のほかに,特別利害関係人として議決権を否定される者が議事を主宰した瑕疵があり,これらの瑕疵を帯びた本件決議は無効と解すべきである。控訴人は,控訴人とイロハニとの間に利益相反の関係はないと主張する。しかし,両会社の株主構成が近似していても相違がある以上,実質上の同一会社とはいえないのであって,両者の利益が相反することを否定することはできない。そして,特別利害関係人として議決権のない取締役は,当該決議から排除されるべき者であり,そのような者に議長として議事を主宰する権限を認めることができないことは,特別利害関係人を排除する趣旨からみて当然のことといわねばならない。この点に関する控訴人の主張は,取締役会の議事に対する議長の影響を軽視するもので採用できない。さらに,被控訴人の妻が取締役会に出席して賛成した事実があるとしても,本件取締役会決議の瑕疵がそれによって払拭されるものではなく,瑕疵ある決議の無効を主張することが権利の濫用に当たらないことはいうまでもないところであり,また,改めてなされる取締役会決議でどのような決議がなされるかは,本件取締役会決議の効力に影響を及ぼす事由には当たらない。これらの点に関する控訴人の主張はいずれも採用することができない。

二  したがって,被控訴人の請求を認容した原判決は相当で,本件控訴は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠田省二 裁判官 淺生重機 裁判官 杉山正士)

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